定山渓鉄道資料集

【定山渓鉄道沿線百話 その四九 「真駒内停車場」】

 

 広大な真駒内種畜場の施設建物にもっとも近づいた地点にホームだけの仮停留場が置かれたのが大正九年春。そもそもは農場に努める人たちの利便のためでしたが、昭和四年の全線電化に伴って列車本数が増加することになり、列車行き違いのための側線および島ホームと信号が設けられて停車場として生まれ変わります。駅舎も大きなものに建て替えられ、職員住宅も別棟で建てられて常時駅員配置となり、荷物積み下ろしのための専用ホームが設けられて真駒内種畜場の家畜の運搬に利用されました。

 種畜場敷地内に駅が設けられたことから当時、近くには民家もまだ少なく、農場関係者以外の乗降客はほとんどいなかったようですが、実は裏手から広がるなだらかな丘陵地帯は桜山と称して、古くから春の桜、秋の紅葉の名所でした。

 

 大正九年発行の『定山渓鉄道案内』には、

「石切山に至る間線路は平たんにして苹果の實る平岸村を過ぐれば地積三千四百餘町歩なる眞駒内種畜場は展開す車窓の眺望雄大にして氣宇自ら宏潔なるを覺ゆ一面茫々たる叢中を肥大の牛馬悠遊する邊り眞駒内精進の二清流場内を縦貫し東に櫻山の名所あり南より北に敷條の丘陵波濤の如く迫りたるの地勢又凡ならず春は花秋の紅葉の頃は景趣一入壮觀なり。本場は北海道廰の經榮にして規模大其畜種は本邦畜産界に最も古き歴史を有す明治五年政府が種畜數十頭を米國に求め地を仝所に相し明治九年牛四十七頭豚若干頭を移牧したるに嚆まり本道基礎種畜眞駒内係を創成せるなり大正八年十一月現在馬一三五頭牛一二七頭貸付馬一六八頭牛八七頭外に羊豚家禽の飼育あり」と紹介されています。開業当初はホームだけの仮停留場でありながら花見の頃には多数の行楽客が乗り降りしていたのかもしれません。電化されて停車場となってからは、時期には臨時便も増発するほどの人気を呼び、円山の桜と並び有数の桜の名所として知られました。

 

 昭和に入ると、戦争とともに真駒内は激動の運命をたどります。終戦後、昭和二一年に始まる進駐軍の基地建設のため、真駒内種畜場はほぼ全面的に接収されてしまいます。『キャンプ・クロフォード』と呼ばれたその基地には司令部をはじめ兵舎、倉庫や住居が建てられ、一部の牧草地はゴルフ場になり、

サイロはクラブに改築されました。さらに毎年春には満開の桜が広がっていた駅裏の桜山も、その大半が削り取られて燃料貯蔵庫や射撃訓練場に変わってしまいます。

 その一方で定山渓鉄道は、種畜場が接収されたことと時を同じくして『キャンプ・クロフォード』建設のための物資輸送の任に就くことになりました。このため真駒内停車場より基地内へと専用の引き込み線が国鉄によって敷設されます。管理は国鉄が、実際の運行と線路保守は定山渓鉄道があたるという方法がとられていました。

 

 それまでののどかな牧場風景が突然その姿を進駐軍基地に変え、緊張とあわただしさに追われていた真駒内停車場は、昭和三〇年ごろより始められた『キャンプ・クロフォード』返還によって次第に落ち着きを取り戻していきます。先に返還された停車場前の北側敷地には自衛隊が駐屯し、後に返還された南側敷地には道営団地の造成計画が持ち上がって、役場と学校を中心とした新しい街づくりが始められることになるのですが、その団地は停車場から南へ約一キロメートルほど離れていたために、この時すでに停車場としての存在意義は失いつつありました。既出の【緑ヶ丘停留場】でも触れたとおり、この時構想にあった「真駒内団地第一期開発地域計画図」では団地前に新駅が設けられることが前提で練られており、さらに札幌オリンピック誘致運動が水面下で動き始め、真駒内をメイン会場としたシナリオに沿って高速鉄道網も検討されていた可能性がありました。ご存じのとおり現実はその構想通りとなり、新駅予定地付近には地下鉄真駒内駅が設けられ、真駒内停車場敷地付近はその広い敷地を利用して地下鉄車両基地への分岐点となりました。

 

※カットは昭和二五年の進駐軍見取り図を背景に、上左が大正時代の桜山の情景(『定山渓鉄道案内(大正九年)』より)と現在の同方向。左下二枚は真駒内停車場構内があった現在の様子。道路反対側に見える建物は停車場があった当時、荷物取り扱いの日通店舗だったと伝えられる。右下2枚は桜山から望む当時の真駒内停車場(札幌公文書館所蔵)と、現在の様子。地下鉄高架のため藻岩山の頂上付近しか見ることができない。

 

※内容はあくまでも現時点までの研究成果による執筆者の主観です。新情報などで不定期に内容を更新する場合があります。予めご了承ください。

<真駒内停車場>

大正9年4月1日に開駅。

東札幌停車場起点より6km440m。

ホームは島式で長さ61m。

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