定山渓鉄道資料集

【定山渓鉄道沿線百話 その九六

 「キャンプクロフォード専用線」】

 

 沿線の歴史の中で、もっとも劇的な変化を遂げたのは真駒内でしょう。開業当時は北海道の農業の礎となった真駒内種畜場。線路が敷かれたその山側は、春には自生の桜が広がる桜山が観光名所となって人気でした。やがて戦後、真駒内種畜場の平野部が広く進駐軍に接収され、ここにキャンプクロフォードと名付けられた駐留基地が建設されることになります。桜山の大部分は進駐軍の手によって大きく削り取られ、射撃訓練場や燃料貯蔵施設に置き換えられてしまいます。基地はその後、昭和三〇年前後に進駐軍撤退が始まると北半分は自衛隊駐屯地として、南半分は道営団地をはじめとした新しい街づくりが計画されます。そして昭和四七年予定の冬季オリンピック開催が決定すると選手村の建設、終了後は住宅として開放されるなど、その様相は時代ごとに大きく変わっていったのです。

 キャンプクロフォード建設のころに話を絞ると、戦前・戦中を通して軍需貨物以外の一切の観光旅客収入が断たれ、被災、老朽化した電車の修理もままならない状況に置かれていた定山渓鉄道としては、キャンプ建設の資材運輸の仕事は業績回復の大きな足掛かりとなります。真駒内停車場にはRTO(Railway Transportation Office.進駐軍専用の鉄道局)が置かれ、駅より延長約一.五キロとそれから分岐する一.二キロの二本の線路が国鉄によってキャンプクロフォード内へと敷かれます。その管理一切を定山渓鉄道が受け持つことになり、大きな収入源となったのです。RTOには定山渓鉄道からも真駒内駅の駅長以外の職員一名が参加し、貨車の手配や貨物の受け入れなど受け持ちます。配車に関して優先権が与えられ直接命令を受けとる仕事であることから、ある意味で駅長と同じくらい重要な立場だったそうです。ちなみに米軍専用の貨物・旅客列車ともその運行は国鉄が受け持ち、真駒内駅構内とキャンプクロフォード線内入れ替え操車や一部の場合を除き、国鉄所有の機関車、客車が使用され、定山渓鉄道線内においても機関士、運転士や車掌は国鉄職員が担当していました。RTOの支配下にあるから当然かと思いきや、その理由の一つは客車の暖房だったそうです。冬期間の客車の場合は暖房が必要になるのですが、定山渓鉄道にはこの当時、スチームジェネレータ(客車へ蒸気を送るための装置)を搭載する機関車を所有していなかったためでした。

 客車列車の場合は蒸気機関車で専用線入線後、真駒内まで推進運転、または後位に別な機関車を連結して折り返し運転というケースが多かったとのことですが、貨物の場合は一度真駒内の引き込み線へ貨車を置いた後、機関車を後ろへ付け替えて引き込み線へ推進運転、あるいは走行中に切り離す「突放」で貨車を送り込む方法をとっていました。

 進駐軍専用列車は当初、横浜から直通の通称「ヤンキーリミテッド」をはじめとして、札幌(キャンプクロフォード)~室蘭で運転され、すべての他の定期列車に対し優先運行されました。ほんの数分の遅れでも現場担当者や駅長が謹慎処分となるほど、運行管理は厳しかったのだそうです。札幌~キャンプクロフォード間には後に、北海道鉄道線(苗穂~沼ノ端)とともに買収されたガソリン動車のキハ40360とキハ40362がこれにあたることになりましたが、貨物に関しては最後まで蒸気機関車による牽引が続きました。昭和二七年のダイヤ改正以後はキャンプクロフォードの撤退まで、「ヤンキーリミテッド」を含めて進駐軍専用列車への一般人の乗車も認められるようになります。

 

 さて、冒頭で触れたとおり昭和三〇年に決まった基地返還は、昭和三四年いっぱいをもって返還が完了します。キャンプクロフォード専用線が、いつ、どの段階で撤去されたのかは今のところ資料が見つけられず不明ですが、昭和三〇年六月のダイヤ改正時に設定されていた豊平~キャンプクロフォード間の旅客列車二往復が、昭和三二年八月改正(ディーゼルカーによる札幌駅乗り入れ開始)のダイヤ上にも描かれていました。不定期列車で一日二往復ながら、少なくともこの次のダイヤ改正時までは線路も存在していたと判断できます。進駐軍の撤退に続いて、一定期間、自衛隊駐屯基地の整備にも活用されていたのかもしれません。

 

 

 

※写真は、左から昭和三〇年六月一日改正のダイヤ。中央は進駐軍専用列車。C11171は、定山渓鉄道を走った車両として動態で現存する貴重な蒸気機関車。右はキャンプクロフォード付近の航空写真(国土地理院・米軍撮影)。

 

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