二キロほど行くと、左側にアカエゾマツの林を載せた低い丘がせり出してくるが、それが去ると一転、逆光にまばゆく光る鸚録の野が、潅木をボチョボチョと立ててひろがった。 この光る野の中にめざす無名沼があるはずだが、草に妨げられて見えない───いや、よくよく注意してみつめると、草の間から、光る水面がチラチラとのぞいていた。しかしそれでは物足りない。一〇〇メートルほど先から、道は低い丘への登りにかかっている。道の両側はアカエゾマツの林。そうだ、あの丘に登ってやろう───
道の右側の丘のほうが、ぐんと手前に、ということは沼の近くまで、張り出している。その突端に取りつく。アカエゾマツの林床はちょっと手ごわいヤブだったが、強引によじ登る、と、果たして、さっきと段違いに、湖面が広く見下ろされた!
とはいえ、すぐ目の前に立つ背の高い草が少々邪魔だし、手前のほうの湖面が、松の枝にかくされて、よく見えない。うーん、もっとよく見えるとこはないかなあ?
「さっき沼の手前で通り過ぎた丘に登ってみませんか?」
と真尾さんが言う。そうだった。あっちにも丘があったんだ。それに、あっちの方が沼にもっと近いぞ。
「うん、そうしましょう!」
戻ってみたら、なあんだ、さっきは気付かなかった、丘に登ってゆく踏み跡が、ちゃんとあるではないか!
といっても、アカエゾマツの枝が次々と横から突き出してきて、それにからまる太々しい蔓といっしょに道路をふさぐ難路だった。がここでも、それらと格闘しながら何とかかんとか登ってゆく。
と、沼が見えてきた。木の幹と枝と葉が相変わらず邪魔で、うまく全景が見渡せないのは同じだけれども、さっきよりもかなり高くまで登ったのに加えて沼がすぐ足もとにあるため、今度はぐんとよく湖面が見下ろされた。
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