旧道フォトグラフス Vol,1

稲穂峠とコカ・コーラ  (仁木町〜共和町 旧稲穂峠) 

     写真 文 ・ 久保 ヒデキ


 「旧道歩き」に熱中させる理由のひとつに、時代の移り変わりを身近に実感する、というものがある。時間の止まった道を歩いていると、時として、こうした”時代の忘れ物”に出会うことがあるのだ。これが普通の道でのものなら、ただのゴミなのだが・・・。
昨年
(2000年)の初夏、といっても日陰にはまだ残雪の残る『旧国道5号線 稲穂峠』を歩いた。共和側からは稲穂嶺の頂上に建つ送信塔まで連絡道があり、峠付近までは快適な道。だが峠の向こう側はすでに廃道となって荒廃し、幾重にも積もる湿った落ち葉が敷き詰められ、自然発芽したイチイなどの幼木の天下となっていた。そんな落ち葉の先から、半分地中に埋もれているこのボトルを見つけたのである。

 現在、緑ガラスの「ホームサイズ」ボトルは造られていない。そして、そのホームサイズにもロゴのデザインの違いなどいくつかのバージョンが存在していた。このボトルは、1971年以降に造られた、いわゆる「破裂対策ボトル」であり、製造年表示から1976年製であることがわかった。稲穂峠は1962年には現在の新道が出来上がっているし、リターナブルであるから製造年にこの場所に落とされたとは限らない。だが少なくともペットボトルに置き換わった90年代より前であることには違いないだろう。錆びて膨らんでいるものの王冠はぴったりとはまっており、開けた形跡がない。しかし、中身は下から5センチほどを残してすっかり漏れてしまっている。

 このボトルの、かつての持ち主は、どういう状況でこれを手放すことになったのだろう?
 旧道歩きの最中、ついうっかり置き忘れてしまったのか?
 あるいは、重さに耐えかね持ちかえることを止め、放置したのか・・・
 時折、ビンを手に取ってそのことを思うたびに、いつも気持ちは『旧稲穂峠』へと向うのである。