旧道フォトグラフス Vol,2

濃昼山道の石  (厚田村 濃昼山道)

      写真 文 ・ 久保 ヒデキ


 濃昼山道は近年まで、北海道でも1、2を争う通行の難所であったという。しかも、それは車道ではない。もともとクルマなどとは縁のない、”歩くための道”だった。だが昭和初期の道路地図には、はっきりと『国道231号線』と記載されている。つまり”歩く国道”なわけだ。まったくもって驚きである。どこへ行くにもクルマを使う文明ボケしてしまった身には、当時の人びとがこの山道を徒歩で往来する姿を想像することさえ、難しい。今ならわずか数分で通過してしまう安瀬〜濃昼間も、当時は片道を一日がかりだったわけだから。

 近年、この山道を保存しようとする人たちの努力で曲がり笹など下草が刈られ、ずいぶんと歩き易くなっている箇所もある。だが、険しい急斜面と時々現れる不条理な九十九折は昔のままだ。その山道でしばしば見受けられるのは、直径にして5センチから10センチ程度の硬石である。あるところはせまい道路上に敷き詰められたようになっていたり、またあるところは路肩を支えるかのように積み上げられていたり・・・。明らかに作為的に撒かれたものだ。そして、そのほとんどは苔生して、永い時の流れを物語っている。

 これを、山道が現役だった時代からあったものだと断言できる証拠は、何もない。しかし、当時の人々の苦労を思いながらこの旧道を歩き、時代を超えて『道』を共有する愉しみ、みたいなものを、この苔生した石に見たような気がしたのである。