旧道フォトグラフス Vol,11

旧薄別橋 (札幌市 南区定山渓薄別)

          写真 文・ 久保 ヒデキ


 ここ数年、昭和の懐かしい生活を再現したおまけ付き菓子、いわゆる”食玩”のブームが続いている。とりわけリアルなミニチュアが付いていた「タイムスリップ・グリコ」は、一時、思わず私も買い集めてしまった。だいたい昭和30年代前後の電化製品がラインナップの中心であり、リアルタイムにそれらとともに過ごした幼い時期の記憶が一箱ごとに蘇っていった。食玩がウケた理由が”懐古ブーム”であるなら、おそらく今、世間的に関心が高まっている旧道・廃鉄も、”懐古ブーム”の表れのひとつかもしれない。
 身近な土地の歴史を研究するという分野はすでに過去から確立されているものであり、それを”ブーム”という一言で片付けてしまうのは忍びない。だが、これをきっかけにほんの短い時間でも旧道を歩くことで、郷土の歴史を振り返ってみることは決してムダなことではないと思う。その意味では北海道は非常に恵まれた環境にあるのではないだろうか。各地の集落(国)と江戸とを結ぶために街道を発展させてきた本州方面とは違い、北辺警備上の都合で集落を広げるために道づくりが行われた北海道の歴史。それがこの百年足らずの時間に凝縮され、”道路の近代化”に至ってはわずか50年ほどのことである。つまり、他府県と違って旧道遺構を目にする機会に恵まれている。最近の、旧道も含めた”道路の歴史”に対する関心の高まりは、残されている旧道遺構の再発見という意味でもまさにグッドタイミングと言えるかもしれない。
 札幌は比較的大都市にありながら、意外に多くの旧道遺構が残されている。国道230号線の原型は、北海道の歴史を語る上で避けて通ることのできない伊達から中山峠を越えて札幌へ至る『本願寺道路』。その道筋には本願寺道路跡も含め明治期、大正〜昭和戦前期の国道の遺構が散在していて、注意深くたどれば手に触れることもできる。この旧薄別橋もそのひとつで、昭和12年にコンクリート橋としてそれまでの木橋に換わって架けられたもの。昭和50年代に桁がはずされ今は橋台しか残されていない。夏場は草木に埋もれてすぐ隣の現在の薄別橋からも見えなくなるが、葉の落ちる秋にはこうして薄別川の流れの上に姿を現す。
 さて冒頭の”食玩”、ブームがこのままエスカレートして古いトラス橋、ヘアピンカーブのガードロープと路肩の石積みなど、”道路遺構”がおまけになるなんてことがあったらきっと箱で買ってしまうかもしれない。まさか、そんな企画はないよね?