旧道フォトグラフス Vol,12

R274 日勝峠ウェンザル覆道(日高町)

          写真 文・ 久保 ヒデキ


 私の場合、仕事がら地方出張に出ることが多い。特に道東方面。北海道地図を見るとお分かりのとおり中央部には日高山脈が連なり、文字通り東西を分けている。その東側が道東地方。現在それをまっとうに超える峠道は3本あるが、私がもっとも愛用している道が国道274号の日勝峠。現在では札幌から帯広方面へ抜けるにはもっとも所要時間が少ないルートであることは誰でも認めることだろうけれど、私が初めて走った昭和50年代末頃は日高・清水側ともトンネル以外はほとんどダートで、地形に素直なコーナーの続く悪路だった。しかもまだ登川〜日高間の国道が開通しておらず、大きく鵡川〜平取周りを余儀なくされていたから、すでに高速道路が開通していた滝川方面に廻って狩勝峠を越えるのとでは所要時間に大差がなかったはずである。ダンプカーのもうもうと巻き上げる土ぼこりの中、建設中で桁も載ってなかった日勝大橋や瑞雲大橋を横目で見ながら何度となく開通を待ち望んだことか。
 そんなかつての悪路も度重なる改良工事の末いつの間にか消え、近年は他の峠にならって整備中の”追い越しレーン”が充実してきたことが移動時間の短縮につながっている。それともうひとつ時間短縮に役立っているのが、現在、日勝峠周辺で進行中の一連の道路付け替え工事。

 ショートカットや緩曲線化などのために付け替えられて取り残された部分は、“安全に通行すること”という道本来の目的を維持するために日夜行われている改良工事の末に生まれた、ある意味では造られたときからすでに廃道を運命付けられていた気の毒な道とも言える。日勝峠の日高側は沙流川に沿ってくねくねと弧を描きながら登るが、熊のモニュメントの立つドライブインを過ぎたあたりから一層渓谷感を増し、たて続けにいくつかの橋を渡り、覆道が連続する区間となる。そのひとつ『ウェンザル覆道』は完成が1974年3月。沙流川を渡った迂回の新トンネルの完成が2000年頃だったので、わずか30年にも満たずに御役御免となったわけである。
 さて、その『ウェンザル覆道』は短い生涯であった一方で、解体埋め戻しといったことにはならずに済みそうだ。写真のとおり覆道の前後区間は一定間隔で植樹がなされているのである。私自身、“植樹をもって自然に還す“という手段をとっているケースは、あまり記憶にない。比較的都市部に近いところならともかく、地方の山間部で散見するのはアスファルトも朽ちるに任せた野ざらしのままか、良くても更地かただの盛土状態。しかし、この日勝峠区間に関しては一貫してその方針が貫かれているようで、日勝大橋付け替え部分など改良に伴って廃道となった箇所は、そのほとんどが同様に植樹処理されている。これは誰にも素直に受け入れられる気持ちの良い後処理だと、通るたびにつくづく思う。

 改良工事の方は現在も進んでいて『ウェンザル覆道』より先、『いわな覆道』下に『鹿鳴トンネル』という新トンネルが控えている。開通すれば、『第一鹿鳴覆道』がこの『ウェンザル覆道』同様、廃道となるだろう。植林されれば、文字通りもうひとつの”樹海ロード”も延びてゆくことになるかもしれない。